トライアウト一次審査はesports 銀座 schoolにて3チーム合同で実施された
eスポーツを専攻できる学校や養成機関の数も増えてきて、プロになれる道が何となく拓けてきていると感じている人もいるかもしれません。ただ、学校を出ただけで、専攻を修了しただけで、プロとして食べていけるわけではないのは、他の多くの専門職と同じく、eスポーツの世界でも同じこと。
特に、eスポーツのプロになりたい子どもを持つ親御さんなら、絶対気になるのは「eスポーツのプロって食べていけるの?」ってことでしょう。まだ業界としての日も浅く、ある意味人気商売な構造ゆえ、固定給を払ってくれる事業主は少ないのですが、一方でマネタイズの方法がいくつもあるというのが特徴的です。
「E SPORTS LIVE & NEWS」では、eスポーツのプロとして生きていく方法について取材していきます。ちゃんと食べていけるのか、という問いに対するリアルな解を感じてもらう狙いです。
第1回は、子どもを対象にIT教育を提供する事業者が運営するeスポーツ・プロチーム「TEQWING e-Sports」を取材しました。
今年1月20日、株式会社コナミデジタルエンタテインメントが運営する「esports 銀座 school」にて、本年度修了生を対象にした合同トライアウト一次審査が実施されました。
eスポーツ・プロチームの3チームが参加し、プロ・プレイヤーの候補として迎え入れられる人材を審査・選考しました。
その参加チームのひとつが「TEQWING e-Sports」です。その運営会社である合同会社テックウイングは、小中学生を対象に「ロボット教室」「プログラミング教室」「eスポーツ教室」を提供している教育事業者です。「TEQWING e-Sports」の一次審査を通過したのは2名。チームごとに実施される二次審査へ歩を進めました。
E SPORTS LIVE & NEWSは、2月に実施された「TEQWING e-Sports」の二次審査に立会い、その一部始終を確認すると同時に、同社の加藤友大代表にお話を伺いました。
TEQWING 加藤友大代表
―貴社ではeスポーツ教室も開催なさっているのですね。
加藤:元々はロボット開発とプログラミングの教室を開いていました。どちらも我々が子どもの頃にはなかった習い事ですけれども、それをもっと最先端にしたい、世の中で他がどこもやっていない最先端の教室ってなんだろうって考えて、eスポーツ教室を開設しました。ゲームが脳の認知能力を上げることは科学的なエビデンスも出ています。ゲームをしっかり考えながらプレイするってことは、ロボット開発やプログラミングなどとほぼほぼ同じ効果があります。eスポーツも立派な教育として運営していけると判断して始めました。
千葉県ではうちが初になるのですが、全国的にも子ども向けにeスポーツを教えている教室なんてほとんどありませんでした。うちはそれを3年前からやっています。
背景的には、これからどんどんITやAIといった科学技術が発達して、ITリテラシーやプログラミング的思考力などが不可欠な世の中にもっとなっていくと予想しています。
そういったなかできちんと対応できる、社会に出た時に本当に役に立つ力を身につけられる教育をしていきたい、と。「社会に出て役に立つ能力」というのは、テストでいい成績をとるための暗記の力ではなくて、自分の頭で考える力と、課題を解決していく力、論理的に物事を考える力です。当然プログラミングのスキルも必要なので、そういったものを教えていこうという理念で運営しております。
―子どもたちにスキルをきちんと学んでいただこうという思いは、間口がかなり広いことに端的に反映されていますね。子どもたちが関心を持つ入口を上手に用意なさってるなっていう印象です。
加藤:そうですね、eスポーツもその一環です。ゲーム自体が子どもにとって良くないものっていう偏見もまだまだ根強いのですが、私自身も子どもの頃からゲームは好きですし、そういったネガティブなイメージも変えていけるといいな、子どもたちがゲームを習うというのが当たり前の時代になるといいな、という個人的な思いもありますね。
―そうした理念による事業を背景に、実際にeスポーツチームを立ち上げられました。「TEQWING e-Sports」のチームとしての特色を教えてください。
加藤:まずはチームを立ち上げた理由にありますね。eスポーツの教室を運営していくとなると、当然eスポーツを教える講師が必要になります。また、うちでeスポーツを習っている子どもたちがその成果を試す舞台として、子ども向けの大会を自分たちで開くようになりました。そうすると、大会の運営スタッフや動画配信スタッフ、さらに配信するとなると実況解説要員が必要になったりと、周辺の人材がいろいろと必要になってくるんですね。だったら自分たちでチームを持てば講師も安定して供給できるし、人材の配置も本業とかなりのシナジーが得られます。そういった意味でチームを持ちました。
もう1つはeスポーツ選手には、それだけで食えてる選手の方が圧倒的に少ないのですが、私たちはこの教育事業をバックボーンにしているおかげで、プレイヤーとして活躍する以外にも先生としてeスポーツを教えるっていうキャリアを選手たちに作ってあげられるということを考えました。
私たちの事業自体にシナジーが出るっていうことと、eスポーツでお金を稼ぐもうひとつの手段を彼らに示すことができる、という意味でもチームを運営する意義は非常に高いし、チーム自体の大きな強みにもなっています。
―素晴らしい着想だと思います。選手が先生業もやっているチームは他にもあるかどうかってご存じですか。
加藤:専門学校や高校などで講師やってますっていうケースはあるにはあるんですけど、多くは1~2校ぐらいなんです、実際に教える場が。うちは10校以上あるんですよ。なぜ派遣先がこんなに多いかというと、私たち自身が教室を持って教育事業をやっているので、普段から生徒とも接しているし、生徒の親御さんとも接しているし、学校とか専門学校が現場での抱えてる問題とか課題とか悩みとかは当然うちも同じように抱えています。
やっぱり取引先である学校側の気持ちとかが全部わかるっていうのが強みのひとつ。もうひとつは、教育事業をバックボーンにしているチームなので、選手の振る舞いや発言をものすごく厳しく見ていて、そういった点もご評価いただいてるのではないかと感じています。
学校で教えている選手とかチームは他にもあっても、深さというか規模感とかで言うと、うちはかなり頑張ってるんじゃないかなっていう自負があります。
―そのプレイヤーの立ち振る舞いみたいな部分に関しては、eスポーツ界全体でもすごく重要な課題ですよね。
加藤:そうですね。どうしてもeスポーツがニュースに扱われるときって、選手が炎上したとか、発言に暴言入っちゃったとかっていうことが非常に多いので、それはとても残念なことだと感じています。もちろん競技ですので、試合での強さというのは非常に大事な要素ですけれども、やっぱりそれ以外のところでeスポーツ選手として子どもたちのお手本になるような、尊敬されるような選手になってほしいと私たちは常に思っています。
―「TEQWING e-Sports」のチームメンバーは、具体的にはどういう活動をしているのですか。
加藤:eスポーツ選手として大会に出て、競技シーンで活動していくことが基本です。それと並行して自社の教室で講師をしたり、コナミさんの「esports 銀座 school」のようなスクールで講師をやらせていただいたりっていう講師業の活動ですね。また、地域のイベントや、いろいろなeスポーツのイベントに出場したりもします。これは選手としてだけではなく、大会ゲストや実況解説っていうところで出たりとか。自社で大会を主催することもあるので、そこではプレイヤーとしてではなくて、解説役や運営として活動します。
―選手として純粋にチャレンジするっていう以外にもかなり活躍の場が用意されているように感じます。
加藤:選手がチームに入るメリットのひとつというか意義としては、一個人でやっていくだけでは得ることができないステージを用意してあげるっていうのがポイントだと思っています。大会に出て活躍するだけであれば、個人でも出ようと思えば出ることはできますから。それ以外の選択肢としてのいろいろな機会を与えてあげられることが重要です。
―そのチームに入るためのトライアウトの審査を今回実施なさいました。一次審査は「esports 銀座 school」での合同トライアウト。TEQWING様はどういったところを審査なさったんでしょうか。
加藤:その人がどういう実力を持ってるかっていうのは実績を見ればわかります。直接会う機会というのは、こちらとしても非常に貴重なので、選手の話し方とか振る舞いとか、どういう人柄なのかっていうところを見ました。
eスポーツの選手は当然試合に出場して活躍するのも非常に重要な活動なのですが、それに付帯してメディアに出る機会もあります。私たちもスポンサー企業様から支援をいただいているので、メディアに出た機会にスポンサーさんの信頼度を上げる、印象を良くする、そういうことができる人なのかなっていう観点でも審査しています。
二次審査の様子。候補者とのシビアな面接
―戦績はデータでご覧になって、審査会場では面接での評価が重要だということですか。
加藤:はい。ありきたりな回答になっちゃってると思うんですけど。声の大きさとか、堂々と話す子もいれば、ボソボソ喋る子もいるし、相手の目を見てちゃんと会話できるかどうかとか。かなりしっかりしてるなっていう子もいれば、そうでない子もいて。
―私は最近プレイヤーを取材するたびに思うのですが、結構しっかり受け答えする子は増えてきましたよね。
加藤:はい。特にコナミさんみたいな、あのようなスクールで学んでる子たちはやっぱり基本がしっかりしていますね。
―例えば「この子は講師に向いてるな」とか、あるいは「ちょっとこの子は人に教えるの無理かもしれないけどプレイヤーとしてならいけそうだな」とか、そういったチームに入ってからの活躍の仕方を、選考の時点で考慮なさるのでしょうか?
加藤:それはありますね。うちのキャリアって選手としてだけではなく他にもいくつかあるので、「この子だったらここまでできるな」とか、どうしても考えます。
例えば、スポンサー企業から新しい商品が出た時に、スポンサーのご担当者と一緒に記者会見に出るとか、そういったこともあります。多少はルックス的な点もって言うと語弊がありますけど、メディアに出た際の立ち振る舞いや明るさ、何か他人に好かれるような雰囲気かどうか、というのも見ます。いい印象を与えられる人柄というのは、その人の個性というかセンスというか、才能みたいなものだったりするので、練習してもなかなか変えられるものではありません。
―先に実施なさった一次審査では、今日面接にいらっしゃる人たちが基準に達していたということですかね。
加藤:そうですね、二次審査に進む資格はあったということです。この人たち以外にも、この子いいなって思う子は正直いたのですけど、逆に人柄が良いからといって選手としてのレベルが足りないと、それはそれで無理なので。
―今日の二次審査でご覧になるのは、どういった点でしょうか。
加藤:一次審査は合同トライアウトなので、あまり突っ込んで話せない部分も正直ありましたから、今日はそれ以降の部分っていうことですね。具体的に言うと、選手の振る舞い、人柄、発言について、うちは特に厳しく見ているのは先に申し上げた通りです。元々が教育事業ですし、いろいろな学校で講師もやらせていただいてるので、国内のどのeスポーツチームよりも基準は厳しいと思います。
今日の審査のポイントは、本当にその基準を日々守れるのかどうか。eスポーツのチームって緩いところは結構緩いんですよ。それが悪いって単純にいうつもりはないのですが、多少煽ったプレイをしたり、 多少暴言を吐いても、ある程度は許容するよってチームもありますが、うちはそれを一切許容しません。ガッツポーズまでならいいのですが。
なので、そういうノリで来るんだったら全然話になんないよってことですね。どこよりも厳しいし我慢しなきゃいけない部分も多い、それでも来る覚悟があるのかどうかっていう確認をします。そのルールを破った場合には君がただチームをクビになるだけではなく、他の選手のキャリアも終わらせてしまう可能性があるんだよっていう責任の部分ですね。
遊びのクラブじゃないので、あなたが変な発言をすると他の選手にも迷惑をかけるし、他の選手の仕事がなくなるかもしれないし、チームからスポンサーが撤退してしまうかもしれない、場合によっては損害賠償請求とかもされる可能性もあるし、それも踏まえてしっかりやる覚悟があるのかどうなのか。これをしっかり確認します。
二次審査はTEQWINGのeスポーツ教室の会場で行われた
以上は「TEQWING e-Sports」加藤代表のインタビューの一部で、これはトライアウト二次審査の実施前にお話をお聴きしました。いかがだったでしょうか。
二次審査のポイントについてお話しになっている通り、インタビュー直後の実際の面接は「プロチームの一員として活動していく覚悟」を確認することを中心に実施されました。
普段のプレイスタイルから常に自らを律していないと、ここでは認められないと感じさせられました。「遊びのクラブじゃない」という言葉に運営者の思いが込められています。
そんな「TEQWING e-Sports」の厳しい基準の大きな理由は、インタビュー内で語られている通り、このチームでは選手にプレイヤーとしての活躍に加え、講師としての活躍も期待されていることです。eスポーツを通じて後進を育てる、そんな講師の顔を持てるからこその厳しい基準だと言えます。
ただ、eスポーツに勤しむ一方で別の仕事を本業としていたり、アルバイトやパートタイムの職を持っていたり、というプレイヤーも多い今の日本国内では、eスポーツに関連した複数の収入が期待できるチームというのは、かなりポイント高いのではないでしょうか。
大会での賞金を得るだけでなく、自社運営の教室や、専門学校・養成所で講師として活動すると、それに応じて報酬が支払われるそうです。
この「地に足のついた夢の追いかけ方」という仕組みは、真剣にeスポーツのプロとして生きていきたい人には有望な選択肢のひとつでしょう。
いやがうえにも関心を掻き立てられました。
ということで、トライアウト二次審査以降の「TEQWING e-Sports」のプロセスと活動も取材していきます。
「プロチーム『TEQWING e-Sports』のトライアウトを取材した(後編)」で報告しまーす。