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ホームチーム・団体SCARZ【eスポーツのプロになる②】プロチーム「SCARZ」のトライアウトを取材した(前編)

【eスポーツのプロになる②】プロチーム「SCARZ」のトライアウトを取材した(前編)

eスポーツ銀座スクールでの合同トライアウトには3チームが参加

eスポーツのプロになりたい人と、eスポーツのプロになりたい子どもを持つ親御さんに向けた連載「eスポーツのプロになる」、テーマは「eスポーツのプロって、ちゃんと食べていけるの?」。

業界の現状や将来性も含めたリアルな感触をつかんでもらうために、eスポーツのプロとして生きていく現場を取材していきます。
第2回は、この4月に「Rainbow Six Siege」の世界選手権「BLAST R6 Major Copenhagen 2023」に出場しBEST8の成績を残したプロチーム「SCARZ」を取材しました。

本連載第1回「【eスポーツのプロになる①】プロチーム「TEQWING e-Sports」のトライアウトを取材した(前編)」でご紹介したesports 銀座 school(現 KONAMI eスポーツ学院)の合同トライアウトに「SCARZ」も参加しました。この合同トライアウトとは、株式会社コナミデジタルエンタテインメントが運営するKONAMI eスポーツ学院の在学生・修了生を対象に、eスポーツ・プロチームの3チームが合同で実施する一次審査会のこと。

ここで各プロチームの選考基準をクリアした修了生は2月以降にそれぞれ実施される二次審査に進むことができます。つまり有力プロチームに所属するためのファーストステップと言える重要イベントなのです。
本年度は1月20日に開催されました。そして、SCARZの二次審査に進めたのは、たった一人。
日本のeスポーツチームとしては活動歴も長く、世界の舞台での実績も刻み始めたSCARZ。その一員になれるか否か。
二次審査の現場を取材し、SCARZの運営会社である株式会社XENOZの代表取締役 友利洋一社長と、SCARZの総監督でもある遠藤直哉執行役員のお二人にお話を伺いました。

今回お話を伺った友利洋一代表取締役と遠藤直哉執行役員

―まずはSCARZのチームとしての特色と、メンバーの活動についてお聞かせください。

友利:では、特色については私から、実際の活動については遠藤のほうからお話しします。

まず、このSCARZというチームは eスポーツのアマチュアチームとして2012年から活動を始めまして、現在11年目です。日本では古参というか長いチームとなっておりまして、その中でいくつかのタイトルで優勝を重ねてきています。最初は結構遊びではじめたチームだったのですが、途中から本気でやっていこうと法人をたちあげました。

―それが株式会社XENOZですね。法人にしたのはどういった理由からなのでしょうか。

友利:日本ではプロゲーマーっていう職業がそもそも食っていけない時代がありました。でも自分たちの下の世代の若い子たちを見ているうちに「日本人、才能あるんじゃないか」と感じまして。そういう人たちをもっと育てていきたい、そのためには土台が必要だと考えてプロチームとしてやっていくことにしました。

―人をちゃんと育てていこうという思いが最初からあったのですね。

友利:そして日本でもゲーマーとして食べていけるようにしよう、ということがきっかけですね。

―まさにeスポーツのプロとして食べていく、ということの実現のために始められたと。実際にチームとしての収益はどのように得ているのですか。

友利:大会で活躍して、人気になって、グッズを売って、スポンサーをつけてっていうことです。ほかのプロスポーツ競技と一切変わらないのかなと思っています。

―同じ構造ですね。

友利:だから強ければいいっていう世界でもないですね。人気もすごく重要になってきます。どうやって自分をプロモーションするんだとか、そのプロモーションをチームはどのように活かしてくのかっていうことも全部まとめて収益が成り立っています。

だから、どうやってビジネスしていくのみたいなところは、いつもシビアに話していますね。

―グッズ販売もすでに本格的に展開されていますが、どれもとてもスタイリッシュです。そういったチームのイメージ構築にも気を配っていらっしゃるのですか。

友利:どうしてもストリートスポーツのイメージを求められることもあって、メンバーもそういう風に映るようにはしていますね。

―eスポーツチームの中でもSCARZのビジュアルは戦闘的というかワイルドな印象です。

友利:やはり競技で1位を目指していくチームですから。ただ実際にメンバーになるには人間性が基本です。競技の中でどれだけ人として成長できるのか、というところを大事にしているチームです。

―メンバーは具体的にはどんな活動をしているのですか。

遠藤:いくつかの部門に分かれているので、部門によって多少異なる部分はもちろんあるんですけど、だいたい12時頃に集まって軽くウォーミングアップ、13時からスクリムといって練習試合を21時くらいまでやりまして、その後に反省会を2、3時間。あとは各選手が配信したり、メンバーと一緒に違うゲームをやってみたりとか、そういったスケジュールになっています。だいたいいつも深夜の1~2時ぐらいまで選手は活動していますね。

―練習時間も長いのですが、反省会を結構がっつりなさるのですね。

遠藤:そうですね、やっぱり反省会はその1日の集大成っていうところですので。しっかり自分たちで一日一日、目的を立てて練習していますので、その目的達成のために昨日の反省が今日の練習に活きたのか。今日改めてどういう反省が新しく出て、明日からどういう練習の仕方をしていくのか。練習にどういう風に反映していくのかっていうことを、しっかり反省します。実りある練習活動にするために反省会の時間はチームでも大事にしている部分です。

―昨日の反省を今日にちゃんと活かすとかって、なかなか大人の社会でも簡単にはできないですよね。

遠藤:いまでも日本で1位を獲るっていうことは大変なことで、やっぱり練習でひとつひとつしっかり重ねていくことは当たり前に大事だなと思ってます。もちろん、それだけではもはや他のチームでもやっていることなので、では自分たちはそこにプラスアルファの差をどうやってつけていくのかってところまでチームとして考えています。それぞれの部門で課題は違えど、そういう姿勢を目標にしながら活動しています。

―いまチーム全体では何名いらっしゃるんですか。

遠藤:いまは50名ぐらいです。

―大きいですよね。グッズでもアパレルの展開をなさっていたり、選手の方だけではなくて、クリエイターもちゃんとチームに抱えていらっしゃるんですよね。そういう体制って、日本のチームでは珍しくないですか?

友利:最近のチームだと珍しいように見えるんですけど、昔ながらのチームでは結構それが普通だったということもありまして。時代とともに形がすごく変わってきてるなと思います。我々も今後はどうなるかわからない部分はありますけれども、基本的には多くの選手とコンテンツクリエイターを抱えていくということです。

―先ほどグッズがスタイリッシュと申し上げましたが、やはり表現としてきっちり出していくっていう、そういう意図なんですか。

友利:そうですね。あとは、ちょっと悲しい現実ではあるんですけど、ゲームって流行り廃りがやっぱりありますので、どのタイトルをやるかっていうのに選手も左右される部分があります。僕たちは選手の人間性を見ていると先ほどいいましたが、いい選手がいれば一緒にやっていきたいって思いは強くて、セカンドキャリアとして実際にうちの社員になった子もいたりします。そういうふうに活動を繋げていければと思いますね。

―選手から運営側に、ということですね。まさに法人化なさっているからこその受け皿といいいますか。その選手の人間性を重視するというのは、先ほどのお話にあった反省会とかにも表れているのでしょうか。

遠藤:はい。各部門でも選手を獲るときに重視しているのは、技術はもちろんですが、人間性、練習への取組み方や姿勢、そういうことも大切です。というのも、チームメンバーの活動はかなりハードなスケジュールなんですね。団体競技なので1人でもチームの輪を乱すような選手がいると、それだけで練習の効率が落ちたりもします。選手間のトラブルを増やさないためにも、獲得の段階から非常に絞って、うちのチームの練習についてこられる人材なのかどうかっていう点を見極めてます。

―今回の合同トライアウトでも、やっぱりそういうところをご覧になったのでしょうか。

遠藤:プロの世界ですから、まず実力っていうところは非常に大事な部分ですので、これまでどういう大会に出てきたのか、どういうゲームをやっていてどれぐらいのランクなのか、どういう風に学校生活を送ってきて1日どのくらいの時間ゲームをやってるのか、そういうことはもちろん見ます。でもやっぱり1番大事なのは人間性とかパーソナリティの部分。将来どうなりたいのか、SCARZのトライアウトに入れたらどういうふうになりたいのか、そのために必要なことをどうやっていくのかっていうところまで、質問として掘り下げていった時にどんな答えが出てくるか、といったところを一次審査では見させていただきました。

―そういった質問とか評価軸とか、これ記事に書いちゃって大丈夫ですか。

友利、遠藤:大丈夫です、大丈夫です(笑)

―ありがとうございます。では今日の二次審査ではどういった観点でご覧になりますか

二次審査の面談で受験者に質問する友利代表

遠藤:合同トライアウトだと時間も限られますので必要最低限の情報で審査しますので、今日はもう少し深くまで彼(候補者)の人間性を知れればいいなというのがひとつ。あとは実技もありますので、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか、こちらとしても楽しみにしています。
それと、今日は代表の友利もいますので、またちょっとちがった視点もはいるかと。

―2人の視点でっていうことですね。友利代表はどうですか、どんな人だったらいいな、とか。

友利:年齢がすごくお若いので、今後いろんな可能性を秘めてると思うんですね。その時にやはり芯となる部分とか、あとeスポーツにかける思いとかっていうところを聞いてみたいなと思ってますね。
今はプロゲーマーを目指しているのだと思いますが、将来的には裏方になるかもしれないですし。eスポーツはまだ成熟した文化ではないですが、成熟史の文化を見ていくと熱量が結構重要かと思っていまして、だから熱の部分っていうのを見てみたいなと思いますね。

―なるほど。確かに今は彼はプロゲーマーになりたいと思っているかもしれませんが、いざなった後どうするんだっていうのは大事なことですよね。

友利:そうですね、そこは決してゴールではなくてスタート地点だと思ってるので。大事なのはその後、ですね。

―チームや運営会社はそこまで見ていらっしゃるということですね。ありがとうございました。

 

このインタビューのあと、友利代表と遠藤執行役員による二次審査が実施されました。お話しになっていた通り、候補者の人間性とeスポーツへの思いや熱が試される内容だったと感じました。面談のなかで友利代表が候補者に対して、真剣に取組むなら英語をやれと強く勧められていたのが印象的でした。「日本人、才能あるんじゃないか」という友利代表の思いから始まり世界を目指しているSCARZチーム自体の覚悟もまた、トライアウト候補者にしっかりとお伝えになっているのだな、と。

二次審査の実技をチェックする遠藤SCARZ総監督

記事冒頭でご紹介した通り世界選手権「BLAST R6 Major Copenhagen 2023」に出場したSCARZですが、コペンハーゲンでの戦いぶりは会場の観客から”Let’s Go SCARZ!”のコールが起きるほど感動的なものでした。スクリム、反省会、配信などの個人活動、と毎日ハードな活動を重ねているSCARZ、着実に目標に向かって邁進しています。

一般的な企業でも規模の大小に関わらず、理念が明確で事業活動の方向性もそれに合致している会社は総じて元気であるように感じます。
実際、「2022年度版 中小企業白書」によると経営理念・ビジョンが明確な中小企業は、そうでない企業より労働生産性の向上幅が大きい傾向にあるとのこと。
前回ご紹介したTEQWINGも今回のSCARZも、代表の方はゲーム好きという起点があったとしても、それにとどまらずeスポーツという舞台で何を成し遂げたいのか、事業体としてのビジョン、ミッションをはっきりとお持ちでした。そこに向けた活動ができる体制をチームや運営会社として日々整備なさっていました。
「どこに就職するか」という観点ではなく「何を仕事にしていくか」を考えたときに、ビジョンが明確な事業の一員として参画できることは、個人にとっても有意義です。
そういう意味でも今回2チームの二次審査に臨んだトライアウト候補者の人たちを応援したくなりました。

ということで今年度の審査結果も含めて、これらプロチーム所属への入口となるトライアウト期間について、次回以降お伝えしていきます。

・SCARZ HP https://www.scarz.net/
・KONAMI eスポーツ学院 HP https://www.konami.com/ginza/school/
・2022年版 中小企業白書「中小企業経営者の経営力を高める取組」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_2_3.html

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